904 リスクアセスメント


ISO 12100 : 2010 ・・・ 整合規格 JIS B 9700 : 2013 は、リスクアセスメント ( 以下 RA と略す ) の手順を規定している。
以前は、ISO 14121 ( J IS B 9702 )でリスクアセスメントが独立していたが、12100 に含まれたため、ISO 14121 (JIS B 9702 ) は廃止されている。


(1)リスクアセスメント手順
@機械類の全ライフを対象とする。
  製造、輸送、据付、使用、点検、修理、廃棄 までとする。

A各段階毎に以下の順序でリスクアセスメントを行う。


(2)手順
@意図する使用を明確にする。
仕様、予見可能な誤使用、対象となるユーザの力量 ・・・

A危険源 ( 〜 しそうなこと ) を見つける。
計画段階で 〜 しそうなところはないか式に見ていく。

  ・人の墜落、転倒
  ・はさまれ、巻き込まれ
  ・切り、こすれ
  ・動作の反動、無理な動作
  ・物の落下、飛来、転倒
  ・激突、車両と接触
  ・崩壊、倒壊
  ・高温、冷温物との接触
  ・有害物との接触
  ・踏み抜き
  ・感電
  ・爆発、破裂
  ・火災
  ・おぼれ
  ・重量物と接触、重量物の落下
  ・高圧流体噴出
  ・その機械特有の危険源

この列挙順序は日本の労働災害原因の順であり、規定ではない。

B.リスクを見積る。
リスクは、被害の大きさと発生頻度の関数とする。

Cリスクを評価し対策を講じる。
  ・目標が決まっていること。・・・当社の製品は全て見積値 ○○以下を達成する。
    より高い安全性が要求される特殊な場合は、達成レベルを厳しくする。

  ・達成するまで繰り返す。
  ・ある対策をした場合、その対策によって新たなリスクが派生していないか考慮する。
  ・できるだけ定量化する。

D終了したら文書を保管する。


--- 以上が要求事項である ---



(3)あれこれ

@RA のフォーマットは決められておらず、メーカに委ねられているので、ここが難しい。

A被害の大きさはある程度わかるが、頻度の根拠が難しい。
根拠がなければ、ベテランの経験と勘でも仕方ない。

B電気装置の RA はしなくてよいのか?
IEC 60204 では、電気装置のリスクの評価は、「 機械のリスクアセスメントの一部として行うものとする 」 としており、電気関係の RA として別途やる必要はない。
しかし、ISO 13849 制御システムの安全 という難解な規定があり、簡単には済まない。
これは、ここでは触れないことにする。

C対策時、危険源の原因を探らないこと。
「 転倒して、大怪我をした 」 のとき、坂道、油こぼれ、あわてていた ・・・ など転倒の原因は、星の数ほどあるので、これを探りだすと収拾がつかなくなる。
原因つぶしではなく、転倒しない、あるいは転倒しても怪我をしない防護策を考える。
原因つぶしは、信頼性 UP のステージで行い、RA のステージでは追求しない。

D検討の深さに留意する。
  ・リスクは最後まで突き詰める。
    一般論の段階で止めない ・・・ 小さな部品 ⇒ 乳児が飲み込む ⇒大変だ回収だ!の単純反応せず次を考える ⇒ ほとんど臓器に害を与えず排泄される可能性が大 ⇒ 害を与える物質はない ⇒ そう大変でもない ⇒ 回収など大げさにしなくてもいい。

  ・あらゆる人 ( 動物 )を想定する。 ( 子供 〜 老人、来客、外国人、ペット・・・ )
  ・あらゆる環境を想定する。 ( 季節、曜日、時刻、天候 ・・・ )

E対策順序に留意する。
  ・本質安全をまず考える。
  ・安価な対策が必ずある。・・・ ロープ 1 本張るなどでもいい。
  ・情報提供の対策を採用したとき、リスク評価値を下げてはならない。・・・ユーザが実施してくれなければ効果がでないため

F大きさが最大、頻度が最小のとき、例えば ( 100 年で 1 人死亡 ) の評価値は下がり、対策は軽い処置になるが、これをドラスチックに容認せねばならない。
「 人の命は地球より重い 」 と日本的に言い出したら崩れ去る。
日本国民にこの考え方が受け入れられるかどうかはわからない。

Gできるだけ定量化することと謳われているように、定量化が難しく、これで確実というところまでは完成されていない。
自社 ・他社の事故データの収集と分析、それらの蓄積によって磨き上げしていくものである。

Hこれらの実践を確実にするためには、これ以前に ISO 9001 などの品質管理体制ができていなければならない。
言われなければしない、言われてもしない国民気質を変えられるか?または変えるほうがいいのかどうかはわからない。

I様式例 ・・・ 自社の特性に合わせて作成すればいい。
危険源の大きさは、3 〜 4 ランク ぐらい
大きさ 状態 金額
1 死亡 1 億円
2 重傷 数千万円
3 軽傷 数百万円
4 上記以外 百万以下

大きさの表現は、対象にあわせてわかりやすいようにいろいろ選択肢を決める。
死亡、システム喪失、重大な環境破壊、金額換算、復旧時間など



発生頻度も、3 〜 4 ランク ぐらい
頻度 状態 間隔
A 頻発する 数日 に 1 回
B 起りうる 数ケ月 に 1 回
C ときどき 数年 に 1 回
D ごくたまに 10 年 に 1 回
E 起りそうにない 数十年 に 1回



見積値は、大きさと頻度の関数なので、マトリクスでもいいし、積でもいい。
積など計算方式の場合は、大きさ、頻度を数値で表す。
マトリクスの場合の例
頻度 大きさ 1 大きさ 2 大きさ 3 大きさ 4
A 1 3 7 13
B 2 5 9 16
C 4 6 11 18
D 8 10 14 19
E 12 15 17 20



処置も、3 〜 4 ランク ぐらい
見積値 レベル 具体策
1 〜 5 許容不可 最優先で設計変更や物理的安全防護策を追加
6 〜 9 好ましくない 設計変更や物理的安全防護策を追加
10 〜 17 許容できる 計画順序に沿って設計変更や安全防護策を追加
18 〜 20 許容できる 発生時に安全防護策を追加

この結果に基づき、例えば 1 〜 9 は達成されているので、10 〜 17 のものをいつどの順序でやるか予算を割り当てて実施計画を作成する。
18 〜 20 は特に何もしなくてもいい。
1 〜 9 の物の仕様変更や改造をした場合は、都度 RA をして評価する。


決め事であり、絶対的なものでなく、対象や法の改正、世間の情勢に合わせて随時改良していくものである。












---- 2014.02.04 ----